2010年、上海万博を探る(1)/FEATURE

2010年、上海万博を探る(1)
「Better City, Better Life」
 
1、 はじめに
 2002年12月3日夜、上海の街は喜びに包まれた。
 夜22:15、投票の結果、上海が2010年万博に当選の知らせが入る。世紀公園では花火があがり、復旦大学などキャンパスでは今か今かと結果をまって集まってきた学生たちが歓声をあげる。新天地の屋外のスクリーンにはその瞬間が映し出される。街角では号外の新聞が発行されるなど、上海全体が活気にあふれた。
 北京でのオリンピック、上海での万博、まるで1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博と開催されたその当時の日本のような活気をいまこの街はもっている。これを機会に上海を世界にアピールし、経済発展の起爆剤にしたいという中国や上海市政府の願いがひしひしと感じられる。
 これから3回にわたって上海万博について触れてみる。
 
2、 地道に行われてきた努力
 足掛け3年にわたる経過を見てみる。
1999年12月8日 国際博覧会協会(BIE)に中国政府代表が上海を2010年万博として立候補させる。
 
2000年3月17日 中国政府が2010年上海世界博覧会申辧委員会を発足。
 
2001年7月 2010年上海万博のテーマを決める。「Better City Better Life」(都市、さらなる素晴らしい生活)に決定。上海という巨大都市の特色を生かし、人と都市の係わり合いから、都市生活をテーマにしたものになる。
 
 
2002年1月30日 国際博覧会協会に2010年世界博覧会立候補の報告書を提出。
 
2002年3月10日 国際博覧会協会が上海で6日間にわたる実地調査。
2002年12月3日 国際展覧会事務局の第132回大会がモンテカルロで開かれ、中国、韓国、ロシア、メキシコ、ポーランドで投票が行われる。
 
投票は4回に分けて行われた。
第1回目投票: 中国36票 韓国28票 ロシア12票 メキシコ6票 ポーランド落選
 
第2回投票: 中国38票 韓国34票 ロシア10票 メキシコ落選
第3回投票: 中国44票 韓国32票 ロシア12票で落選
第4回投票: 中国54票 韓国34票で落選。中国に決定する。
 結果的に中国が勝ち取ったものの、韓国の追い上げがきつかったようだ。特に2回目の投票では4票の差でしかなく、かなり僅差であったといえる。韓国は麗水を候補地に挙げ、政府や財界が根回しに走ったようだが、韓国大統領選挙も控えており、国民の関心はむしろこちらに向いていたとも言えよう。中国、とくに上海ではお得意の市民上げてのキャンペーンや宣伝活動が行われており、社会主義の国の特性を十分に見せ付けられた形だ。


3、 テーマ「Better City Better Life」について
 中国語では「城市、譲生活更美好」となっており、英語の訳として「Better City Better Life」とされている。日本語ではさしずめ「都市、さらなる素晴らしい生活」としてみたが、如何だろうか?
 このテーマは上海市世界博覧会申辧工作領導小組辧公室副主任、上海市政府発展研究所中心副主任朱楚さんによる案だ。そのコンセプトはズバリ「都市」をテーマにしたところにあるという。
過去の万博では「人類」「自然」「科学技術」「交通」「居住」などをテーマにしたものがあったが、「都市」そのものに着目してテーマにしたものは少ない。
 国連の調査では2010年には都市人口が全人口の55%を占めるとされ、今後もその比率がますます高まるという。中国も農業を中心にした社会構造から、工業社会に変わろうとしている。同時に環境問題、人口問題など都市が抱える問題も顕著になってきた。上海の700年に渡る歴史は、それは都市の発展の過程であり、特に西洋文化と中国文化の融合という面ではその特色は大きい。今後この都市が発展する過程にいかに諸問題を解決し、更に素晴らしい都市を建設していくか、それが大きな目標になる。
 上海万博の大きな特色の一つに、上海の母なる河とも言われる「黄浦江」をその骨格に利用している点である。6年前、筆者が始めて上海の地を踏んだとき、市内の河という河は猛烈な悪臭を漂わせており、流れる水は墨のように黒ずんでいた。しかし現在、その改善はかなり進んだ。最近では魚が戻ってきたというニュースもある。また河が見える地区に住む住民も増えてきており、とくに沿岸の緑化工事は大きく進展した。
 いまではウオーターフロントが市民の憩いの場所に変化したのだ。南浦大橋と現在建設中の盧浦大橋により挟まれる会場予定地は造船業や海運による荷物が集積する工業地帯である。またこの地区の生活環境はまだ余り改善されておらず、都市再開発が望まれていた。万博をこの地区にもってくることにより、徹底的にこの地区を改造し、新たな人の流れを作り出そうという発想は中国的で興味深い。結果的に8500世帯、25500人の市民が立ち退きすることになる予定だ。またこの地区には汚染で問題になっている企業も14ほどあり、これらも立ち退きされる。万博によりまったく新しい街ができてしまうのである。
「Better City Better Life」について上海市世界博覧会申辧工作領導小組辧公室では5つの解釈をしている。
 
@ 農村と都市との相互関係・・都市、農村ともにその形が違っても人類が居住するための場所であり、お互いが相互に発展し、相互に依存しあわなければならない。中国にとっては深刻な農村と都市部の格差是正という大きなテーマにつながるのかもしれない。
 
A さまざまな文化の融合・・上海を代表にとってみれば、さまざまな民族、国籍の人々が住んでいる。それら民族や文化がお互い創造力を発揮し、多様な文化を形成しなくてはならない。
 
B さまざまな形式の経済発展・・都市化と工業化が相互に促進しあい、その結果さまざまな経済活動が行われるようになる。都市とは経済発展と社会発展の原動力である。
 
C 科学技術の革新・・都市にはさまざまな研究機関、大学などが集まっている。その結果世界各地からも人材が集まり、さまざま情報が交流しあう場所だ。科学技術の発展が都市を絶え間なく更新させ、人々の生活環境を改善する。
 
D 21世紀の住宅地のあり方・・住宅地は都市生活では「細胞」に位置する基本単位である。また人々がもっとも関心のある事項でもある。
 
   
 これら5つの内容は、主テーマから派生してきた解釈だが、今後各国の展覧内容などによりさらなる討論を重ねていくようだ。
 中国人にとって、上海という地は非常に意味が大きい。中国共産党が誕生したのも、また中国ではじめて近代封建社会制度が解体し資本主義社会の基礎を作ったのも、また経済、文化の中心として絶えず新しいものを吸収してきたのも上海である。
 万博に向けて、またこの街が大きく変わろうとしている。

 次回は上海万博のその具体的な姿を見てみたいと思う。
 
(山之内 淳)



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