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(※本レポートでは、農産物は日本の地方物産という定義であり、農産一次品、農産加工品いずれも含む。)
<連載内容>
連載は全4回です
・第1回 上海のいま…市場の概況と、輸出可能な農産物
・第2回 輸出の全体像を見る…輸出スキームと、政策・行政の役割
○農産物輸出の課題と解決策とは
今回のレポートでは、上海の消費市場に焦点を当て、
・農産物は中国・上海で果たして売れているのか。
・よく売れるようにするにはどうしたらよいか。
という2点の問題に対し、考察を進める。
その前に前回のレポートで提示した、農産物輸出のスキーム図を再度確認する。

農産物輸出には主に4段階あり、中国・上海で取り組むべき課題は以下の3点である。
①貿易・物流面の障壁を取り払うこと。
②商談会や展示会にて試験販売を行い、マーケティングを進めること。
③最終目標の継続的な販売に至るまで努力すること。
この課題解決に関わるプレーヤーは貿易会社、現地コンサル、小売や飲食店となる。彼らは農産物輸出の現状をどのように認識しているのか。そして、上海市場を制した食品・企業にはどのような特徴があるのだろうか。関係者への聞き取り調査を元に、上海市場の現状を展望する。
○成功する商品はたったの数%
関係者が口をそろえて言う言葉がある。「上海市場は思ったよりも厳しい」と。
「中国のビジネス市場は希望と活気に満ちあふれており、日本に留まるよりも成功確率が大きい、中国に進出すべきだ。」最近日本では、このような報道をよく目にする。こうした中国楽観論に促されているのか、貿易会社やコンサルティング会社には食品輸出に関する問い合わせが、毎日何件も来ているという。
ところが、その後商談会や展示会に出される商品は問い合わせ件数と比べ10%ほどになり、さらに2,3年と継続して販売される商品は、わずか1~5%と激減してしまう。商品販売の厳しさは日本の場合と変わらず、むしろ貿易面や商習慣などの違いで日本とは違う難しさがあるのだ。とりわけ、このレポートのテーマである地方の農産品や物産はかなり苦戦している。各県事務所主催の地方物産フェアであっても、観光誘致も踏まえて広告宣伝の意味合いが強く、物産の販売が奮うわけではない。さらに大手食品メーカーとは異なり、地場メーカーや農協は資金力、機動力、商品力、様々な面で見劣りしてしまうのが現状である。
では、継続販売に至った数%の商品は、様々な困難をどのように勝ち抜いたのだろうか。彼らの成功要因は一体何だろうか。
○成功した要因は?
冒頭で挙げた“取り組むべき課題”のうち、②と③において必要な努力が以下の表にまとめられている。

そもそも日本の食品は、消費者の認知という点で大きく優位に立っている。これが上に挙げた2点で、「安全・安心」というイメージと、価格より品質を重視するというものである。日本食品のターゲットは、価格面から必然的に“中国人高所得者層”となっているわけだが、彼らはモノの品質を最重視しており、価格は購入時の決め手にならない。また日本の食品は中国国内のそれよりも安全だという印象が広まっているため、日本食品が売れる土壌ができているのだ。しかしこれは基礎部分に過ぎず、売れるようにするには関係者の努力が必要となる。
「企業側」というのはメーカー、貿易・コンサル、小売といった関係者をまとめて称しているものだが、主にメーカー・生産者の努力を指している。そして差別化をもたらす3つの源泉として、「現地活動」、「マーケティング・ミックス」、「積極性」が挙げられる。
(1)現地活動
「現地活動」とは、日本ではなく中国・上海で特に行うべき活動を示しており、“調査・研究開発”と“現地での営業努力”の2点が重要である。
現地で商品を販売するにあたって必要不可欠なのが、現地のニーズを調査し見出すこと。そして、ニーズに合わせた改善を行うことである。これは当たり前のことのように思えるが、日本の生産者は商品の品質や味に絶対的な自信を持つため、中国市場でも売れるという妙な確信を抱いていると言われる。つまり、現地でのニーズ把握以前に、自分の商品が市場でどのような位置にあるか、ということすら認識していないケースが多いのだ。この誤った自信を打破するためにも、まずは自社商品の品質を他社メーカーと比較し、その位置を相対化しなくてはいけない。その上で現地のニーズを調査し、調査結果に合わせて商品の味やPR活動を適宜修正していく必要がある。
また「営業努力」は、海外で商品を販売する際の重要な一歩である。やみくもにバイヤーとの接点を持つのではなく、きちんと話を進めてくれるバイヤーに出会うことが大切だ。
(2)マーケティング・ミックス
では具体的に、競争に打ち勝つためにどのような戦略をとればよいのだろうか。現在の上海市場では、生産者の努力で差別化できるのはいわゆる“マーケティング・ミックス”の内ProductとPromotionであり、Price、Placeは半ば固定された状態だ。従って「商品力」と「PR」の2点で差別化を進めるべきである。
「商品力」はすなわち品質を意味する。「品質」は“味”や“安全性”で判断されるものだが、日本の食品では品質についてある程度保証されていると言える。そのため品質で勝負するには、他社や他国の食品とは異なる特色が欠かせない。しかし問題なのは、日本から輸入できる食品は、農産物だとリンゴ・ナシ・米の3種、加工食品でも賞味期限の長いものに限られる点である。輸入できる品目は自ずと限られてしまい、皆似たような商品が並んでしまう。その中で「商品力」だけで差別化するのは至難の業である。
そこで大きく求められるのが、「PR」面である。既に巷には日本の食品があふれており、よっぽど特徴のない商品でないと売れないのが現状だ。その中で少しでも目立つために、商品の見せ方を新しくする必要がある。例えば、商品パッケージに原色を多用するなどして目立たせる。その際中国・台湾メーカーの包装は参考になるだろう。また、店舗で販売する際には商品をPRする「販売員」が重要だ。他には積極的に試食を行うなど、商品の良さを実感してもらうことも必要だ。
(3)積極性
最後に「積極性」として、“持続・継続力”、“危機管理能力”、そして“本気度”を挙げたい。上海において日本の食品はメジャーなものになりつつあるが、需要を上回る形で大量の商品が輸入されている。いわば“過当競争状態”と言える市場で勝ち残るのは非常に困難である。
幸いにして実際の販売が可能になったとしても、利益ベースでみた際に赤字であるケースが多い。しかし最初の1年であきらめては元も子もないし、実際顧客も定着しない。初めの1年は“テストマーケティング”として利益を度外視しても、自社商品の普及に全力を注ぐ。2年目以降に徐々に販売価格を上げるなどして消費者の動向をうかがう。それでも消費者が離れないようであれば、3年目にしてようやく継続的な販売が可能になるのだ。このように、短期的な利益に捉われることなく、中長期的に中国で顧客を定着させることを第一目標として事業を継続する必要があるのだ。
また日系食品メーカーが中国で失敗しやすい原因としては、「危機管理能力」が欠如していることが考えられる。もちろん中国に進出する前に、様々な角度から事業の可能性、市場の危険性を事前に分析しているだろうが、それでも予期せぬ事態が起こるのが中国である。事前にシミュレーションを検討するのももちろんだが、現地で起こった不具合に対し素早く対処できる力も必要だ。自社だけでは情報のアンテナを張り巡らすのは難しい場合には、現地のコンサルティング会社を利用するなどして素早い情報収集と対策の遂行が欠かせない。
そして、中国に進出する以上「心構え」が必要なのは言うまでもない。現地のコンサルティング会社に話を聞くと、中国市場のリスクを恐れ、遠く日本から指示を出すだけで、中国に顔をださない経営者が非常に多いという。だがこのような姿勢では成功しないのは当然で、中国市場で勝ちを得たいならば、トップ自ら中国に向かい販売するなど相当積極的な姿勢が求められるのだ。
以上が、上海のコンサルティング会社や小売業の方々に伺った話を元に、他社と差別化できた成功要因を示したものである。様々な障壁や罠を乗り越え、他社との差別化競争に打ち勝つ一つのヒントとして、ご覧いただければ幸いである。
○次回内容:様々な壁を打ち壊すには…
上海では日本の食品・農産物普及のために、多様な関係者が日々奮闘している。しかし販売に至るまで様々な規制や障壁が存在し、日本食品が市場性を持つまで普及しているとは到底言い難い状況である。こうした壁を壊し、より日本の農産物の市場を拡大するにはどうしたらよいか。そして海外での市場拡大を、いかに日本の地方活性化に結び付けるか。次の最終回にて、著者の考える問題点とその対策を提示する。
○謝辞
今回の記事編集にあたり、上海超頂貿易有限公司の高野様、全州超市(上海)有限公司の光原様、Joint B&Kの柏原様には大変お世話になりました。改めてお礼申し上げます。
(文責:居波晃弘)
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