ここでご紹介するのは、2009年初頭、上海の浦江鎮で発見された5000平方メートルにもわたる清朝時代の建築群である。古色蒼然とした安徽省の伝統建築が残っているというだけでなく、中国の秦家、胡家、孔家などの大家族の歴史が刻まれていて、感動を覚えずにはいられない。
広大な浦東平野に柳が芽吹き、菜の花が咲く、穏やかな春の日。筆者は浦江鎮にある小さな村「陳行」にやってきた。この村は陳行公路に面しており、一見しただけでは、ほかの村と変わりなく、ありふれたコンクリートむき出しの洋館が所狭しと立ち並んでおり、特に美しいという印象は受けない。
正午になったころ、陳行新街という通りで、自転車にまたがって食事に出かける胡彦碩氏にばったり出くわした。筆者が胡酔楼邸宅を探していることを話すと、「私が胡家の子孫だよ、偶然会うなんて、君は何てラッキーなんだ」とうれしそうに言った。それから30分後に同じ場所で再会した。
胡さんの祖先は安徽省績溪出身の商人で、この地にやってきてすでに13代目になる。「胡適、胡錦涛だって安徽省績溪の出だよ」。家族のことを大変誇りにしているようだ。
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この胡さんとの出会いが、今回の「陳行老街散策」の重要な鍵を握ることになる。
| 1、秦家邸―「詒谷堂」
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| キーワード:秦家邸、上海城隍神秦裕伯、中国著名中医秦伯未、玉瓶花馆 |
まず表札に「陳行老街44号」と書かれた秦邸にやってきた。門を叩いてしばらくしても、犬がほえているだけで、誰もやって来ない。後からわかったのだが、家主は昼寝をしており、胡さんが大声で何度か呼びかけ、ようやく目を覚ましたのだった。
ここは黒瓦、白壁、レンガ造りの典型的な中国式邸宅。歳月を経て古びた家に春の柔らかな日差し。とても静かで、穏やかだ。

「詒谷堂」という名の秦邸 
門にしつらえた花壇 
山型の塀。隣家との仕切りとして持ちいれられているが、防火の役割も果たす。
家主は秦小康さんといい、今年68歳。素朴な人柄で客好き、自分の家族についてのエピソードを熱心に語ってくれた。意外だったのは、既に故人である伯父(父方の兄)秦伯未は北京の十大名医の一人であり、「中国中医TOP141」というリストの最初のほうに名を連ねていたことだ。また、祖先を遡ると、宋代蘇東坡の四大弟子の一人蘇観(字は少游)や元末明始めに上海県「城隍爷」(土地の守護神)として祭られた秦裕伯がいることにも驚かされた。秦小康は秦観から数えて28代目、秦裕伯からは19代目の孫にあたる。
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秦伯未の医学書 |
秦さんは伯父である秦伯未が文革のときにうけたひどい仕打ちについて重い口をひらいてくれた。1966年に倒された「三家村」の鄧拓と親交があったため、秦伯未は「黒帮」とされ、中医学大学で教鞭をとっていたことから、反革命的学問の権威とされ家を荒らされ、貴重な書物や書画を奪われた。
当時生活が非常に苦しく、生徒だった王鳳岐(後に医学者となる)が結婚した際にも、お祝いを買う金もなく、彼の書棚に自分の著書『清代名医医話精華』があるのを見つけると、祝辞を書いてお祝いとした。
しかし秦伯未は達観した人物でもあった。1951年土地改革の際も同様に家を荒らされたが、こう言ったという。「家のものは何でも持っていけばいいが、心の中までは奪われないさ」。またかつて、家の階段の踊り場に書き付けたフレーズの一部「无可无而不可无」(「失うものはなくなったが、なくしてはならないものがある」)が残っている。秦さんはこう説明する。「『无可无』とは財産とかそういう身の回りの物、執着する必要はない。『不可无』、これは道徳や学問など人生にとって大切なもの、これは絶対になくしてはならないんだ」。しかし、全体のメッセージは、文革の際に削り取られ、今はわずかにこれらの7文字が残るのみだ。
庭には大きな白もくれんの木があったのだが、秦さんの母親が切り倒してしまった。文革の折、母親は誰かに切られてしまうくらいならいっそ自分で、と苦汁をのんだ。また壁際には花が植えられており、30センチ以上も高さがあって、今でも毎年花を咲かせる。大変美しいが、花の命は短く、数日で散ってしまう。花屋敷の西側にある書斎スペースが「玉瓶花の部屋」と呼ばれるのはこの花に由来する。今ではここはリビングとして使われている。
この部分は清代同治三年(1864年)に造られた。
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庭には古井戸があり、蛇口もついており、
家人は今でも井戸水を利用している |
点心に模様をつける金型、後ろには「宣統己酉中夏玉瓶花館制」(宣統帝己酉年間の夏に花屋敷にて作成)の文字 |

花屋敷のガラス窓
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ガラスの代わりに牡蠣の殻を使った牡蠣殻窓
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中庭。中国建築では隣家或いは建物と壁の隙間に出来たスペースで、明かり取りや雨水の排水に使われる
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リンク:秦伯未について 我所知道的秦伯未
陳行老街:清朝時代の建築と中国の大家族の歴史(その2)
陳行老街:清朝時代の建築と中国の大家族の歴史(その3)
Address
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上海市闵行区浦江镇陈行 【MAP】 |
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地下鉄8号線“耀华路駅”からバス「周陈线」で陈行駅下車(約40分)※注:2009年7月地下鉄8号線南段開通後は,陈行まで直行で行けるようになる。 |
(2009年7月記)
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