TOP連載記事中医沙龍〜中医薬大学の教室より(94)

SARSを未然に防ぐために、中国政府の取り組み その1


1、はじめに

 8月16日に北京で最後のSARS患者が退院した。19歳の北方大学の大学生と45歳の病院職員だ。これでもっていまのところ中国のSARS患者の発症例は報告されていない。しかし油断は禁物である。アメリカの中央情報局(CIA)などで構成される国家情報会議(NIC)は9月2日までに今年の秋の気温の低下とともにSARSが流行する可能性が十分にあるとし、一旦流行すれば、アジアやアフリカなどの途上国ではより多くの犠牲者が出る可能性があると警告を出している。また最近では浙江省で局地的にインフルエンザが流行しており、今のところ上海ではその報告は出ていないが、嘉興平湖のある企業では200人あまりが発熱した。検査の結果A3型のインフルエンザと特定されている。浙江省の杭州では9月から、またその他の浙江省各地区でも10月中には大規模なインフルエンザの予防接種を行うこととしている。SARSの初期の症状とインフルエンザの症状が似ているため、これらの対策はSARS疑いありの患者数を減らすものとして有効とされている。また北京市でも疾病コントロールセンターが中心になって、10月からインフルエンザの予防接種を呼びかけるなど、対策が検討されている。WHOが毎年、インフルエンザの流行やワクチンに関する情報を出しており、それにより予防接種が行われる形だ。マカオでは衛生当局が中心になってWHOの提案に基づき3万本のワクチンを購入、65歳以上の慢性の心臓、腎臓病の患者、免疫疾患のある患者、入院中の老人、医療関係者、消防、空港・港などに従事する人を中心に9月から無料で予防接種を行う。
 治療法、予防法ともにまだ空白段階のSARSに関して、我々はまだ無防備である以上、出来る限りの対策をしておく必要がある。


2、求められる危機管理体制

 8月28日に中国衛生部より『2003年―2004年度、全国衛生系統伝染性非典型肺炎(SARS)防治工作方案』が発表された。この中には万が一SARSが発生した場合の、国家や省、自治区、直轄地などでの対応について決められている。今回はその中から重要な内容を紹介してみる。


2−1緊急模擬演習

 『2003年―2004年度、全国衛生系統伝染性非典型肺炎(SARS)防治工作方案』では9月30日までにSARS患者発生時の緊急模擬訓練を行うようになっている。この訓練では各項目に分かれた訓練と総合訓練に分かれており、緊急時のネットワーク体制、救急システムの点検が行われることになっている。具体的には9月15日までに各省、自治区、直轄地などにおける対応策を衛生部に報告、9月末までにSARS専門の医療隊の組織、情報ネットワークの完備、10月15日までに各衛生行政部門の緊急訓練、10月末までに各指定病院での発熱専門外来の改造、建設完了することとなっている。さらに北京では最大規模の呼吸器に関係ある伝染病にも対応可能な600−800床クラスの病院の建設が計画されており、こちらでは伝染病以外にもそれに伴う合併症にも対応できる設備をもつ予定だ。

2−2 ランク別に分けられた感染状況

 『2003年―2004年度、全国衛生系統伝染性非典型肺炎(SARS)防治工作方案』ではSARS患者が出た場合に、その感染状況はどうなっているか、一般事件、重大事件、特大事件の3つのランクで表現することと規定された。

一般事件…SARS患者が発生。
重大事件…SARS患者の発生が確認され、すでに2つ以上の都市に感染が広がっている。
特大事件…SARS患者の発生が2つ以上の省に及び、さらに拡大の傾向にある。

 この中で、一般事件では発生した地区の省クラスの衛生行政部門がSARS患者の報告を受けた後、中国の全省に対して通報し、各医療衛生部門は緊急体制に入る。また各医療・行政・監督機関では24時間の宿直体制をひくことになっている。一旦患者が発生すると24時間以内に国が専門家グループを派遣することになっているほか、省単位ではSARSの疑いがある患者が発見された場合、12時間以内に呼吸器、伝染病などの専門家チームが派遣され、SARSであるかどうか診断を下すことになっている。


2−3 北京・天津・上海・広州はSARS対策重点地域に

 流動人口の多い北京・天津・上海・広州、及び農村に対してはSARS対策の重点地区に指定されている。その中でも、医療関係者、農民、出稼ぎ労働者、などは特に注意を払うことになっている。

 病院に関しては、過去の経験に基づき、発熱した患者の病院内での動線を再確認し、伝染源の隔離、消毒、2次感染の予防の徹底を図る。また学校、幼稚園、建築現場など人があつまる所では、朝の体温測定を強化する。一旦発熱が確認されたり、呼吸器疾患の患者が異常に増加した場合は、さらなる調査と隔離などの処置をとる。SARS流行予防には早期発見、早期報告、早期隔離、早期治療の4つが欠かせない。とくに出稼ぎ労働者などの住環境が劣悪な場合が多く、また各地に移動するため、彼らの啓蒙運動をはじめ、体調不良なら病院などへ早期に治療しに行くように呼びかけている。

3、最後に

 これから秋口に向けてさまざまなSARS対策が行われる。市民の一部にはすでにSARSが過去のものと風化しつつあるが、過去に起こったさまざまな呼吸器系の伝染病のパターンを見ても、この冬は警戒が必要なのは確かだ。新聞、ニュースなどの最新情報には注意していきたい。

(山之内 淳)


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