TOP連載記事中医沙龍〜中医薬大学の教室より(40)

今年の猛暑、如何に乗り切るか? 古人たちの知恵 その1


 夏が暑いのは、なにも今に限ったことではなく、古代中国でも暑さを乗り切ることは永遠のテーマでした。今でこそエアコンが普及し、暑さをしのごうと思えば、いくらでも方法があるわけですが、古代人にとってはそう簡単なことではありません。中国の伝統医学、中医学ではさまざまなやり方で夏の暑さと立ち向かってきました。中医学の五行説では、夏は「火」の属するとし、暑熱から体を守ることを いろいろと考えます。今回はその中から代表的なものをいくつかご紹介しましょう。

T夏を乗り切るための基礎知識
 古代人は、夏の生活に関して、いろいろな注意点を書物に残して、我々に忠告してくれています。とくに中医学では自然の四季による移り変わりに如何に体をあわせていくか、という問題に 今でも多くのヒントを与えてくれています。今から2000年以上も前の戦国時代に書かれた『黄帝内経』には、冬は「早く寝て、遅く起きる」とありますが、夏になると「太陽を嫌がらずに、早く起床する。」とい書いてあります。陽気が盛んな夏ですので、この陽気を人体がしっかりと吸収する必要があるからです。

 

浦東新区の農村の風景

 しかし、夏場はこの猛暑のため、どうしても体が弱りがちです。それは夏場は汗をかいたり、睡眠が不足したり、総じて人体を「発散」させるようなケースが多いため、体が弱り、「虚」といわれるような状態になってしま いがちだからです。また食中毒なども多いため、消化器への負担も少なくありません。古代から、夏場の食欲不振や体のだるさ、体が火照っている、下痢気味である、などの夏ばてのようなの症状のことを「〔疒に主〕夏」といってきました。こういった 症状の患者に対しては、胃腸の働きを整える生薬を処方して、症状が出る前に予防線を張るのが中医学では一般的です。
 中医学の養生訓として、夏場は味付けのさっぱりした、油の少ないもの、消化のよいものの摂取を勧めます。しかも夏場はとくに食べる量を制限し 、食べ過ぎてはいけません。なによりも夏場は野菜が多く収穫される季節です。よって、昔から夏場にはしっかりと野菜を摂取することを勧めています。
U「氷」だけではない生活の知恵
F古代ではもちろん冷蔵庫がありませんでしたから、食べ物で体を冷やすということは今よりもずっと難しかったことは容易に想像がつきます。そこで体を補うことができて、さらに体を冷やすことができる食材を古代人は見つけたのでした。たとえば西瓜、冬瓜、黄瓜(キュウリ)、絲瓜、苦瓜などの瓜類は夏に食べるものの代表選手です。そのほかに穀物としてはアワやハトムギなどもそうですし、緑豆、豆腐、百合、セロリ、レンコン、トマト、ブタの皮、アヒルの卵、タニシ、昆布など の食品もそうです。一方で、この時期は体のなかの「火」を誘発してしまうような辛いものや羊の肉など温めるような食品は控えます。

苦瓜

冬瓜

西瓜

 夏になると、上海あちこちで西瓜を食べる市民の姿を見かけることができます。値段が安価なだけでなく、みずみずしい西瓜は夏場にもってこいです。西瓜は紀元前3世紀ごろ、西域から中国へもたらされてきたという説が有力で、漢代の古墳に埋葬されていた遺体の内臓から、消化されなかった西瓜の種が見つかったところから、古代人も西瓜を食していたことがわかります。ただその当時はまだ広く普及してたわけではなく、まだまだごく一部の人だけが食することができたようです。 体を冷やす働きがあるところから中国南北朝の時代には「寒瓜」とも呼ばれました。当然、中医学でも西瓜は古くから用いられており、たとえば元代の名医朱丹渓の著した『丹渓心法』には口内炎の治療に使われたという記載もありますし、 後に発展した温病学でも高熱時の補助的な治療としても西瓜は用いられました。暑さを解消するだけでなく、喉の渇きを癒し、利尿作用がある果物として、今でも広く市民に愛されています。
 最近、日本でもダイエットなどの効果で人気の出てきている苦瓜(ゴーヤ)は、こちら中国南方では昔から欠かすことのできない食材のひとつです。上海の市場でも福建省などから苦瓜が運ばれてきます。中医学の世界では、この苦味が大切で、体の陰と陽のバランスを整える働きがあるといわれています。とくにこの暑い季節に、苦いものを摂取すると、消化器の働きを刺激し、食欲を増進させます。また苦味は、心に関係する経絡に入ることができるため、「心」に溜まった火を排泄することができると考えます。そのため、夏にはもってこいの野菜であり、中国の本場の中華料理では、よく口にするのです。


V 冬の病気は夏に予防する中医学の思想

 喘息や関節の痛みなど冬に発作を起こしやすい疾患のある患者さんの多くは、夏場に中医学の病院を向かいます。夏でも気温が特に高くなる夏至から立秋にかけての時期を中医学では「伏夏」ともいいます。それは陽気の盛んなこの時期に慢性病の治療を行っておくと、冬場に症状がでても軽くおさえやすいからなのです。そのため、中医病院の鍼灸科などで、お灸をしてもらったり、針治療を受ける患者が増えるほか、生薬などを処方していわゆる「冬病夏治」を行うのです。症状が無いときや、軽いときに 予防のための治療を行うという発想は、中医学ならではの特徴のひとつです。
 
 中医学の魅力に取り付かれて十数年、かれこれ上海歴9年目を迎える山之内 淳氏は本サイトでもおなじみ。『上海・蘇州便利手帳』の執筆にも参加している。最近は日本で東洋学術出版社と 一緒に 中医ドットコムの企画・執筆も行っている。


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