中医沙龍〜中医薬大学の教室より 

上海の針灸治療


 中医学と聞いたらまっさきに針灸治療にマッサージを思い出す人が多いのではないでしょか。むしろ中薬や漢方薬より受け入れやすいという人もいるかもしれません。中国では厳密には針灸師というような資格はなく、広く中医師という範疇に含まれます。従ってこちらでは一人の医者が針治療にマッサージを加えて、漢方薬を処方し、西洋医学の検査もする、というような総合的な治療が可能になっています。従って中国の中医学大学では、学部の段階で必修として鍼灸科の実習も行うわけです。今回は理論的な説明は抜きにして、上海の総合病院で行われている鍼灸治療について少し触れてみます。(写真1・上海中医薬大学医学博物館にある明代の経穴人形の複製。ツボがぎっしり書き込まれている。見学は要予約)


  1. 治療範囲の広い鍼灸治療

     日本では運動系統の故障などにスポーツ選手が針治療を行ったり、お年寄りが腰痛を治しに病院に通ったりしますが、こちらでは比較的広範囲で治療が行われています。例えば慢性的に胃腸の調子が悪い人や、月経不調、内分泌関係の病気や、冷え性、仮性近視の視力回復、不眠症、などで鍼灸治療に来る患者も少なくありません。私も先日、お年寄りでシャックリが止まらないという患者も治療しました。ただ全体的には顔面神経痛や中風の後遺症、ヘルニアなどによる腰痛、ゴルフ肘、五十肩、肩こりあたりが大部分を占めます。中国式マッサージ「推拿」とあわせて治療するのが効果的です。ちなみに中国語でツボのことを「穴」といいます。


  2. 一般的な治療法

     2−1 先ずは問診

     問診では、主要な症状について医者に伝えます。今までにどういう病気やけがをしたのかを詳しく伝える必要があります。またCTなどの検査結果もあればより的確に治療ができます。なかなか普通の通訳では翻訳が難しいときがあるので、出来たら医学などを勉強したことのある通訳がおればベストです。このとき脈と舌の様子を観察します。脈だけで病気がわかる、という医者もいるようですが、当然知る情報が多いほうが正確な診断が下せるのは中医学も同じです。


       2−2そして針

     ベッドに横になると、いよいよ針治療開始です。その前に、中国ではまだ使い捨て針を使う習慣が完全に定着していません。これは中国人の医療保険の問題とも関連があるのですが、使い捨ての針ではなくても、十分に針を消毒、殺菌して使っているので、基本的には問題はありません。ただ日本人には衛生的にどうしても受け入れられないので、大抵の病院では頼めば使い捨て針を用意しています。もちろん薬局などで購入して持参してもかまいません。長さは色々種類がありますが、一般には1.5寸と3寸のを使います。太さは30号ぐらいが一般的です。(写真・2 マッチと大きさを比較してみてください。)

     中国の針はその刺し方に特徴があります。日本は主に「管針」といって管に針を通して刺しますが、こちらでは針を医者が手で持ってそのままダイレクトに刺します。そのため刺さる深さが若干深いのが特徴です。また針の太さも日本のと比べると格段に太いです。

     針がツボにうまく当たると、痛いというより電気が走るような、なんともいえない鈍い感覚が走ります。殆どのツボでは、針を刺すとき、皮膚に当たる瞬間が少し痛く感じるかもしれませんが、それを通り過ぎると上記のような感覚になります。これを「得気」と言います。針は患部がある局部だけでなく、手足を中心に広い範囲のツボを利用します。これは基本的に経絡の循環にそって考慮します。また押さえて痛いところにも針を刺すことがあります。この場所は各個人によって色々違いますが、もちろんれっきとしたツボで「阿是穴」と呼ばれています。頭にもよく刺しますが、頭は頭蓋骨というヘルメットで覆われているので、比較的安全です。ただ頭は皮膚表面の神経や毛細血管が発達しているので、少し痛く感じるかもしれません。また針を抜いた後に出血しやすいです。頭の針治療は現代医学ではかなり研究されてる分野であり「頭皮針」といってすでに系統だった理論があります。(写真・3 腰痛を治療中の患者)

     針が完全に刺さると、今度は指先をうまくつかって、針の場所を確定し、針を上下に移動させたり、回したりして、ツボに刺激を与えます。これがまた医者の腕の見せ所でもあります。患者が「得気」をしているかどうかは、一般には患者に聞かなくても、医者は針から伝わる感覚で分かるものです。医者は手ごたえとして、針が体に吸いつけられるような独特の感覚があります。

     さて、針が刺し終わると、今度はさまざまな付属的な治療法を行います。針に電流を流したり、お灸に使うモグサを針にのせてみたり、すい玉を使ったり、耳のツボを刺激したり、などなどあります。詳しくは次回に紹介しましょう。

    (山之内 淳)


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