中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

シリーズ連載:生薬の里を訪れて No.2

天然温泉はいかが? - 廬山温泉 -


黄山、泰山などは非常に有名ですが、みなさん廬山はご存知でしょうか?

上海から夜行列車に揺られて約12時間、江西省の西北部、中国で一番大きな淡水の湖po(おおざとへんに番)陽湖の近くに位置します。廬山の中では標高1474mの漢陽峰がもっとも高く、その他の山々が奇抜な形をしています。

廬山ふもとのgu(牛へんに古い)嶺という町は中国でも有数の避暑地です。夏場の最高気温が30℃以下で、7月の平均気温が22.6℃、そのため近代では毛沢東、蒋介石などの指導者たちが洋館風の立派な別荘を構えてました。いまでも保養所が集中する地区で、さしずめ中国の軽井沢とでも呼べましょうか。

また山々の景色が絶景で、このあたりは詩人、陶淵明の故郷だけではなく、李白、杜甫、白居易などの名詩人たちが足跡を残しています。

そして中医学を勉強するものにとっては欠かすことの出来ないあの明代の名著《本草綱目》の作者、李時珍もここを訪れ、自著にその記載があります。私がここを訪れたのもこれがきっかけでした。

T 温泉の概況

《本草綱目》の原文にはこう書かれています。

「廬山有温泉、方士往往?患者疥癬風癩楊梅瘡者、飽食入池、久浴得汗出乃止、旬日自癒也。」

古代から、水虫、たむし、ハンセン病、湿疹、風疹、梅毒などの治療に使われていました。食事をした後に入浴し、長湯をする場合は汗が出るまで、10日もすれば治癒する、という地元の人の経験から、李時珍はヒントを得ています。

そこから李時珍は各種皮膚病の他にも、「諸風筋骨痙攣、肌膚頑痺、手足不随、無眉発、疥癬風癩・・・」と、骨筋肉の痛み、しびれ、手足の運動障害、眉毛、髪の毛の脱毛などにも効果があるとしています。興味深いのは、前述のあとに温泉を使って治療する場合は、かならず生薬の服用と飲食に気を配り、病気で無い人は軽々しく温泉には浸かるな、とあり、同時に空腹時の入浴を制限しています。道理で李時珍は温泉の薬用性質を「辛、熱」と書くだけでなく、「微毒」という言葉を使ってまとめているのも理解できます。

源泉の温度は70℃、重曹硫化水素の泉質でアルカリ性の含ラドンの温泉です。そのためお湯につかると、ぬるぬるとした肌触りがあります。ただ、以上は日本のように詳しい温泉の成分表が有るわけでもなく、あくまでも私が調べた範囲で分かったことです。

水質は非常によく、ミネラル分を多く含むミネエラルウオーターとしては古代から定評があり、楊貴妃も入浴したことのあると言われる西安の臨潼華清池の温泉と成分が似ているという地元の人の話を聞きましたが。

U 実際に入浴してみて

さてさて、温泉のある星子地区は本当に典型的な中国の農村でした。
穴ぼこだらけの国道を車で飛ばすと、廬山温泉の立派な門がひなびた集落に急に出てきます。この中に大小いくつかの療養所が建っています。そこで筆者が宿泊したのが温泉山荘

開業1年足らずの比較的新しい温泉療養所で、中にはレストランなどもついていますが、メニューがないため値段と量を交渉する必要があります。といっても良心的な値段を言ってくれるはずです。

上海の脂ぎった、味の濃い中華料理に食傷気味なら、やっぱり地方の農村の料理は最高です。素朴ななかに美味を見つけ出せると思います。

温泉は基本的に24時間出ますが、朝の7:00から9:00、15:30から21:00までが比較的に高温で、水を足さなくてもいい温度で入れるからお勧めです。43℃前後でしょうか。面白いのは温泉が高温のときしか冷水は供給されません。そうなんです。じつは温泉が大事な生活用水となっているのです。

露天風呂こそありませんが、私の利用した3人部屋(1泊1部屋180元)には写真のようなりっぱな内風呂がついていてまずは満足。お湯は各自が入浴するときに逐一入れていくことになりますが、逆に残り湯を繰り返し使うと言うわけでもなく贅沢。

実際に入浴してみて、肌触りといい、ちょっと熱いぐらいの湯加減といい、まさに温泉。お湯は透明で透き通っています。中国6年目にしてやっと中国でリゾートホテルではなく、温泉らしい温泉に入れて感激しました。とくに肌のぬめり具合が心地いいです。お湯に出てからもしばらくはしっかりと汗をかきますので、入浴後は部屋についてるバルコニーに椅子を持ち出し、農村の風景を楽しむのも乙です。

V のどかな農村の風景


山に囲まれた田園地帯は、日本のそれと非常によく似ています。内陸育ちの筆者にとって、山のない上海と違って、山を見ると心が休まる思いがします。夜の付近の住民の娯楽は屋外ビリヤード場しかなく、暗くなると村は早くから寝静まります。すこし歩くと蛍が小川に舞っていたりしていました。

朝は、牛を連れての農作業が日が昇るとともに始まります。廬山南麓のため、山の雄姿をバックに、人々の営みが始まります。また辺りは行き交う車すら少ないため、世間の喧騒からはなれた静寂が非常に心地いいです。

療養という言葉には非常にふさわしいわけですが、やはり中国の人には温泉=病気の療養という考えが根強いためか、様々な面で整備がまだ整っていません。
そのためせっかくの温泉があっても、ここの地元の人にとってはそう生活に密着した存在ではないように思えました。
それでも各地から療養に来る人が絶えません。

中国の温泉地と言えば、込んでいる、日本と比べると清潔感に欠ける、というイメージが私の頭にあり、過去に黄山の温泉に入ったときはお湯が冷めてしまって結局は冷泉で、良くても温水プール程度という経験もあり、実は全く期待していませんでした。しかし過去に周恩来が湯治に来ている記録もあり、そう見るとやはり立派な温泉です。

W 交通アクセス

面白いことに、廬山の観光コースから少し離れているため、地元のガイドも来たことがなく、また江西省でもかなり田舎の農村というわけで、結果的に穴場的な場所となっているように思います。しかし地図を広げてみると廬山の南側に温泉マークがはっきりと書かれています。

温泉地を経由する路線バスが星子ー徳安間で頻繁に走っていますが、外国人にはかなり勇気がいります。
廬山の観光地区からタクシーを飛ばすと40から50分ぐらい、150元ぐらいで行けるので、こちらがお勧めです。

筆者は1台のタクシーを旅行社を通じて貸切ました。旅行社を通せば自分で行くよりもまず高価にはなりません。

ホテル住所:江西省星子廬山温泉療養所「温泉山荘 」
電話:0792-261-1129(フロント)

 

(山之内 淳 2001年6月取材)


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