中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

シリーズ連載:生薬の里を訪れて

1. 板藍根と田七のお話


私が雲南を訪れたのは3月初めの頃。上海もぼちぼち暖かくなってきてああ春だなぁ、と感じるようになってきてました。

雲南は上海からかなり南へ下るとは言え、標高が高い分だけ気候が穏やかで、一方で1日に四季があると言われるぐらい温度の変化が激しい地方です。

私が行った頃も、朝は上着がいるぐらいに寒いのに、昼間はT-シャツでも良いぐらい。また標高の関係で紫外線が強く、直ぐに日焼けしてしまいました。

この気候と高度が、薬草の生育に適していて、非常に多くの薬草の宝庫になっています。町を歩くとあちこちに田七や天麻、冬虫夏草、などのこの地方の代表的な薬草が売られています。

今回はこの中から田七と板藍根をピックアップしてみようと思います。

T 染物にも使う板藍根

雲南地方に旅行へ行けば、たくさんの紺色の風呂敷のように大きな布をお土産物屋で売っています。シンプルですが白色の様々な幾何学模様があったり、鮮やかな朱色などで彩色されたの物もあります。
これらに共通して言えることは、すべて濃紺をベースにしています。

この濃紺、実は雲南地方では馬藍という植物の葉を使っています。ちょうどこの植物があったので手に取って見たのですが、実は見た目もちっとも青くありません。葉っぱをこすりつけても濃紺の液体など出てきません。そこで地元の人に聞いてみると、なるほど分かりました。時間をおくと私の手が見る見る青く染まってくるではないですか。現地の人の話によると、馬藍は雲南の高度2000m位のところの気候を好むらしく、主に高地で栽培されているようです。

中医学ではこの根が板藍根として、また葉は大青葉として生薬として用いられます。植物全体が薬として使われるわけです。

中国に少し長く滞在したことのあるなら、風邪薬として「板藍根冲液」を中国人の友達からもらったことのある人もいらっしゃるかと思います。インフルエンザ、喉の痛み、おたふく風邪、扁桃腺の腫れなど熱性の風邪に犯された証に対して処方されるこの中薬の主成分がこの板藍根と大青葉なのです。

体の熱を冷まし解毒させる働きがあるため、味ははっきり言ってとても苦いです。

風邪に有効だからといって、すべてに有効と言うわけではありません。ある日本人が風邪引きに服用したのですが、良くなるばかりかむかつきと嘔吐で散々な目にあった人がいます。実は悪寒が強い寒性の風邪の場合、冷えている体をまた冷やしますので、胃の気を痛め服用後に悪心、嘔吐などを引き起こします。ですから症状にあわせて服用する必要があるのです。

現在、薬理学ではさまざまな方面で板欄根は実証されています。細菌やウイルス、毒素に対してその効力を発揮し、抗癌作用まで報告されています。中薬の抗生物質と評価する老中医もいるぐらいで、臨床でも非常によく使われます。

U 雲南の特産、田七

昨今の健康ブームで一躍有名になった生薬、それが田七です。しかしその原産地が雲南で、かつ雲南省東南部周辺の限られた地域しか分布していないことはあまり知られていないと思います。

この田七にはたくさんの異名があり、私たちを戸惑わせます。たとえば三七、血参、金不換、山漆、田漆、人参三七などなどです。三七と呼ばれたのは、その植物の葉っぱが「其葉左三右四(あわせて7枚)」という形態をしていて、また葉っぱが高麗人参などに似ているため人参という称号が付き、非常に貴重な薬物ということで金不換と言ってみたり、名前を見るだけでも非常に面白いです。

雲南地方では標高1000mから1600mの高度山の斜面で栽培され、亜熱帯の高山植物に属します。ジメジメした暖かい環境を好みますが、かと言って暑すぎても寒すぎてもいけません。また収穫するまでに3年以上かかり、8月上旬に収穫したものを春三七、11月に収穫したものを冬三七といいますが、春三七の方がよく太っていて品質が良いとされます。

薬材としての田七を見てください。

ブロンズのような光沢と、愛嬌のある形が特徴です。
重みがあって、硬く、表面につやがあり、切り口が黄緑の物が良質とされています。

非常に硬いため、雲南地方の売店などでよく見る写真のままの状態では使い物になりません。金槌などで砕いて粉々にした後、3gから10gを煎じても良いですし、1gから1.5gを直接服用しても構いません。薬局に行く田七の粉末が売られています。こちらの方がおなじみかもしれません。しかし生薬は加工法によってその効能が大きく違います。それを知らずに買っている人を結構見ますので、ご注意!

@生三七(三七粉)

三七は主に止血作用と腫れを抑える作用があります。特に血を止める作用では止血と同時に血のだんまりを作らず、流れも良くすると言われます。古代中国では出血したところに直接三七粉をかけていたようです。また他の血の巡りをよくする生薬と組み合わせて打ち身や捻挫の時の腫れを抑えるのにも使われます。

外用でも内用でもどちらでも構いません。痛み止めにも効果を発揮します。雲南の地元の人に聞くと、多くの家庭に三七粉など三七に関係する常備薬がおかれているそうです。ちょっとした傷や打ち身には使えます。

現在薬理学では心筋梗塞や心臓病などに対して応用されています。喀血や胃潰瘍など出血にも使われます。またコレステロールを下げる働きも報告されています。
しかしこの手の血の流れを良くする生薬は妊婦は服用できません。

A熟三七

三七を潰した後、油で表面が黄色になるまで炒めたものを熟三七といいます。これも熟三七として粉が薬局に売られています。生薬を加工することは中薬ではよく日常的に行われるため、その効能の違いはかなり重要です。

三七でも同じで、熟三七にしてしまうと、止血や血の巡りを良くする作用が弱まり、主に滋養強壮の方面で使われます。手足に力が入らない、疲れやすい、食欲不振などなど民間ではよく使われています。


麗江、大理では多くの農民が生薬の栽培、採集で生計を立てており、海外はマレーシアやシンガポールからも買い付けにくるそうです。しかし雲南の山をみると多くの山がゴルフ場、リゾート地の開発や、木の伐採などでその自然環境を大きく変えており、生薬の有限性から見てもなんとなく心配したのは私だけではなく、ガイドさんの子供の頃にはまだまだ緑豊かな雲南があり、60年代、70年代に製鉄のための燃料として木が切り倒され、21世紀になった今、政府が巨額を投資して植林に励んでいても、その成果はなかなか現れず、植えては枯れのいたちごっこの状態だと言う話を現地の農民からも聞きました。

雲南地方の町を歩くと、中医学の診療所をたくさん見かけます。ここらの老中医になると自ら山の中に入り、生薬を採取しに行くそうです。西洋医学の新薬に比べると生薬は格段に値段が安いのも手伝って、雲南人の中国伝統医学に対する信仰心はそう簡単に消えることはないと思いました。

(山之内 淳)


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