中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

シリーズ連載:中医学で病因をさぐる

2. あなたの体は湿邪にやられていませんか?


筆者は3月のはじめに雲南に行く機会がありました。

中医学を勉強している私にとっては願ってもないことでした。それは雲南は薬草の宝庫であり、良質な薬草が手に入るからです。

薬草によっては2500mぐらいの高山にしか生息しないものもあり、2000m以上標高を誇る「麗江」は正に絶好の環境と言えます。ここでは雲南地方で取れる薬草の内、3分の2もの品種が揃うそうで、その豊かさが分かります。

さて今回は中医学の「湿」についてご紹介します。

湿は前回の「」に続く病気を導く6つの原因六淫のうちの一つです。 日本語でも「湿気」などで使われていますので、私たちにとってもイメージしやすいかもしれません。でも西洋医学の分野ではほとんど出てきませんが、中医学では非常に重視される邪気で、とくに現代社会に生活している私たちにとっては非常に影響の受けやすい邪気のひとつなのです。

湿があなたの体にどの程度影響を及ぼしているか、たとえば自分の舌を鏡で見てみてください。舌の苔の様子がよくわかります。舌の苔が舌の表面にべったりとへばり付き、舌の地の色が見えなくなっている人はいませんか?そんな人のほとんどは中医学では「湿邪」に犯されていると考えます。別に病気だというわけでもないのですが、そんな人に限って、食欲がない、体がだるい、頭が重いなどの症状があります。西洋医学の医者にいっても何も異常がないのにということで中医の診療所の門をたたく人が少なくありません。

ではどうしてこういう結果になったのでしょうか?一般的に2つの大きな原因が考えられます。

T 気候による影響

1つは気候による影響です。6月など梅雨時になると、空気中に湿が大量に含まれるために、体は自然にそれに犯されてしまいます。古代人はうまく観察したもので、なるほど梅雨時に見る患者のほとんどは舌の苔が厚いことに気づきます。

これは自然界の変化である為、ある意味では一種の人間の生理的変化であるといえます。しかし住居の湿気が多いなど、生活環境によって生じる湿邪はさまざまな病気を引き起こします。

リウマチなどの関節の痛みを中医学では「痺証」の範疇に入りますが、これらは湿が経絡に入り込み、それが体の気や血の流れを妨げたため生じると考えます。湿が集まると、たとえば煎餅が湿気るようにねばねばとしたものになり、結果、湿が経絡から簡単には抜けることが出来ず、痛みが何回も再発するようになります。

そのほか湿疹や水虫などの皮膚の病気も湿と関係があります。これらに共通して言えるのは、治癒までに時間がかかるということです。

U 不摂生による影響

もう一つは食べ物の不摂生によるものが考えられます。食べ物の不摂生によって出来た湿を「内湿」と呼びます。多くは脂っこいもの、お酒、アイスクリームや生もの、冷たいもの、甘いものを摂りすぎるとおこります。また暴飲暴食によってもおこります。

これらは消化器官であるを痛めます。すると食べ物が体全体に運ばれなくなり、消化されなかったり、局部に詰まったりしたところから湿が発生し、その湿が貯まるとお腹の膨張感、食欲不振、ひどくなると下痢もおこします。

日本に留学などで長期滞在した中国人が、日本食は生野菜や刺身などの生ものが多すぎるため、どうもお腹の調子を崩してしまうと言う人の声を聞きます。それらもやはり「湿」と関係があるわけです。日本人は生まれながらにして慣れているわけですが、外国人にとってはそうはいきません。

湿はそのまま放っておくと体の陽を犯し、体全体を冷やす傾向に持っていきます。

余談になりますが、実は抗生物質などの西洋医学の薬は、現在中医学においては体を冷やす苦寒薬の部類に入ります。したがってこれらを長期服用している患者も同様に舌の苔が厚くなる現象が見られます。

さて、冒頭で舌を見ていただいて、舌の苔が厚く、疲れやすく、食欲不振の方は飲食にはもちろん注意していただきたいわけですが、それ以外にも疲れやすいという理由でむやみに精力剤や高麗人参、西洋人参などを服用してはいけません。根本は胃腸が弱っているわけですから、まず脾や胃の働きを整える必要があります。せっかく薬を買うために多額の投資をしても吸収されずに無駄になってしまいます。

そんな人には一般に香砂六君湯などがよく処方されます。この薬の中には陳皮、木香、砂仁、人参、白朮、茯苓、甘草、半夏のう8種類の生薬が含まれています。陳皮、白朮などが脾、胃などの内臓の働きを整える一方、砂仁が体の湿をとって冷えている中焦を温めます。

(山之内 淳)


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