中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

シリーズ連載:中医学で病因をさぐる その1〜風邪を追求

1. 風邪を追求

2月に入って寒い日が続きました。今年の冬の上海は雨が異常に多かったような気がします。3月になろうとする今日この頃、先日はいきなり20℃を超える汗ばむ陽気になり、大陸の気温の起伏の大きさに驚きます。こういう時こそ、体調を壊しやすくなり周りでも風邪をこじらせている人が少なくありません。
風邪といえば日本人は鼻水やくしゃみ、咳を想像するでしょうか、こちら中国では一般的に風邪を感冒と称します。しかし風邪という言葉も残っていて、いまでも中医学の分野ではよく使われる用語です。今回は風邪という言葉から中医学の病因の考え方をご紹介します。

中医学では人が病気にかかる原因、つまり病因を大きく分けて外因と内因の2つに分けます。
外因は六淫と癘気に分けられ、六淫とは風、寒、暑、湿、燥、火(熱)の6つの病気になる自然界の気候と関連のある原因、つまり邪気のことを言います。癘気とは伝染病のことを言います。これは気候とはあまり深い関わりはなく、病気の性質が急で、激しいものを指します。

T 「風」の正体

六淫は気候の異常な変化により生ずる病気の原因です。

たとえば酷暑や厳寒などの異常気象などがすべて関連してきます。また体の体質は六淫の力とも深く関わりあいます。お年寄のように体の正気が弱ってしまうと、邪気と戦えなくなり、容易に体が邪気に犯されてしまいます。

その六淫のなかでも風は一年中存在し、人々の体の表面から犯すために、その筆頭として扱われることがよくあります。そこで中国人の日常生活を観察しているといろいろと参考になることがあります。
たとえば中国の赤ん坊が冬場にとてつもなくたくさんの服を着せられているのも、一種の風を避けるためであり、日本人の薄着の文化とはすこし異なります。また髪の毛を洗ったあとに、すぐに乾かさないと頭痛がおこると言われるのも、頭が風を受けて体内を犯すからだと言います。

風は主に春に強く吹きます。黄砂交じりの埃っぽい風が上海の街にふきあれる頃を想像してもらうとよく分かると思います。その性質は姿形がなく、時には荒れ狂い、動くことを好み、気候の変化や、季節の変化をもたらします。

そのため中医学では病気を引き起こすもっとも重要な要素として取り上げられています。
邪気となった風、つまり風は体の皮膚にある隙間、汗腺、毛穴から体に進入します。そしてそれらの隙間を弛緩させ、汗を出します。また性質の軽い風ですから、頭など上半身をまず犯し、結果、頭痛や肩こり、寒気などを引き起こします。

《黄帝内経・素問・風論》に”風者、善行而数変。”とあるように、すばしっこくもぞもぞ動く風の性質から風に関する病気は患部が体内で移動するとします。たとえば遊走する蕁麻疹や、皮膚が痒くなったりするのも風の特徴です。
その他、扇風機などに長時間あたっていて首が回らなくなったり、頭痛をした経験はないでしょうか?実はこれも中医学では風の仕業であると考え、風が頭部の経絡を侵したからだと考えます。性質の軽い風にとって頭部などの上部は格好の標的なのです。

U 風邪は百病の長

有名な言葉ですね。実はこの言葉も《黄帝内経・素問・風論》に”風者、百病之長也。”として記載されています。

今でこそ風邪をこじらすとその他もろもろの病気を誘発してしまうような意味がありますが、中医学のもともとの意味は少し異なります。
中医学では風邪が六淫を先導し、ほかの寒、燥、暑、熱、湿などを体に呼び込んでしまうという解釈をします。たとえば風寒邪が体を犯すと悪寒がし、喉が痒くなり、水のような鼻水が出てきて・・・、というような症状が起こります。風熱邪だと、悪寒よりも発熱が激しくなり、喉が痛くなり、黄色い粘っこい鼻水が出てくるというようになります。決して風邪が引き金でと言うわけではありません。風邪とともに他の邪気が交じり合い、より性質の複雑な症状になるのです。

 

何気なく使っている風邪という言葉ですが、そこには中医学、漢方医学の名残があります。なんて考えると、やっぱり日本人も自分の国の伝統医学を忘れていないんだと思い、うれしくなってしまいます。

(山之内 淳)


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