中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

シリーズ連載:中薬ミニ辞典 No.2

日本人に馴染み深い生薬、「山薬」

上海にいる皆さんは中国語のメニューなどで何度かお目にかかっていることかと思います。

実はこの植物は、野菜だけではなく薬としても非常に珍重されています。
そうなんです、あのねばっとした「とろろ蕎麦」でおなじみのとろろ、つまり山芋(ながいも)のことです。日本では生で食べる機会が多いですが、中国では輪切りにした後に油炒めにするのが多いようです。

中国人の中にも、あの粘った感触に抵抗がある人が多く、生では滅多に食べません。しかし薬の有効成分の含有量から考えると、生で食べるのが一番のようで、改めて日本食の健康との関係の深さには驚きます。

さて、薬物としての山芋はカラカラに乾燥させられ、またでんぷん質が固まって非常に硬く、白色で、サイコロのように立方体に切られています。もちろん保存を考慮してのためです。

今回は生薬としての山芋、「山薬」にスポットを当ててみます。
以下の五臓六腑の名称は西洋医学とは異なります。
詳しくは中医沙龍「五臓六腑」の項をご参照下さい。

山薬は中国では主に河南、河北、山西、山東あたりで栽培されています。
中国人にとっても特別なものでもなく、上海でも普通の自由市場に行けば安く手に入ります。
ところが生薬としての山薬は非常に効能が豊富で、また性質も穏やかで、滋養強壮の大切な役目を果たします。五臓六腑ではに対して作用します。中医の言葉を使うと「益気養陰、補脾肺腎」と表現されます。

ポイントは肺、脾、腎のそれぞれが固有に持つ陰と陽のうち陰に作用し、体の気を充実させるところにあります。そこから以下の場合で応用されます。

1.体の疲れ、食欲不振、下痢、消化不良など

これは脾の働きを高める作用と関連しています。

古代から多くの医学者は山芋と他の生薬を組み合わせて薬を調合しています。
人参などと組み合わせた「参苓白朮散」なんかは非常に名高い薬として、現在でも脾の機能低下によって起こる下痢などにはよく処方されます。

しかし陰を補うのが主な働きであるため、体に湿の多い人、たとえば舌の苔が厚い人はあまりお勧めできません。湿は水分に近いので、陰の性質を持ちます。したがって陰を補いすぎると、かえって体の陰陽のバランスを崩してしまいます。

2.空咳、など痰が多くない咳をよくする

これは山薬の肺に対する作用です。

肺はその性質から湿を好み、乾燥を嫌います。そのため乾燥しすぎると肺の気、特に肺の陰気が不足してしまい、咳などが出るわけです。そんな時、陰と気を補う山薬はうってつけです。とくに頑固な空咳がなかなか直らない人など、慢性化してしまって、肺の気が不足した「虚」の状態の人にはよく処方されます。

3.頻尿、男性の夢精、女性の「おりもの」の量が多いなど泌尿器系の病気 

腎の気を補う性質から以上のような病気に効果を発揮します。

「六味地黄丸」はご存知の方も多いのではないでしょうか?
この山薬はこの中にちゃんと含まれています。泌尿器関係で体から出るものが異常に多いのは、中医では一般に「気」が不足して、それらの分泌をとめることができないからと解釈し、特に腎の働きとは切り離すことはできません。そこで腎の気をダイレクトに補うことのできる山薬はもってこいというわけです。

4.のどの渇きに

陰を補うという性質から、陰が不足して陽が盛んになるタイプのいわゆる糖尿病にも使われます。1日250gほど大量の山薬を、お茶のように煮て飲んでも構いません。

いかがでしたか?山芋は山薬として中医では非常に多くに場面で活躍しています。

大切なのは山薬がそれだけで効力を発揮するのではなく、ほかの生薬を組み合わせてそのパワーを倍増させることにあります。中医学では生薬同士の組み合わせを非常に大切にするのです。

医食同源という言葉はまさに山芋にぴったりではないでしょうか?

(山之内 淳)


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