
先日は週末を利用して杭州をまだ内陸に3時間ほど進んだところにある天目山へ生薬の観察に行ってきました。天目山一帯は国の自然保護地区で、空気も、水も非常によかったです。ここは大学の中薬学部の生薬鑑定、採集実習の基地でもあり、多くの専門家が訪れます。最近は"石谷"という渓谷も観光客に開放され、地の利の良さからも多くの上海人が観光に来ていました。(写真)
さて今回は五臓のラスト、腎を紹介します。
中医学の中で、腰の部分にある腎は非常に大きなウエイトを占めます。西洋医学で言う内分泌に関する機能以外に、中医学では独自の思想を発達させました。マッサージなどに行くと、中医師に"あなたの腎は弱っている。"といわれたことのある方もいらっしゃるかもしれません。そこで西洋医学の検査をうけたけれども何とも無かった、ということもよく聞きます。しかし、腰痛、失禁、夢精、インポテツ、耳鳴り、 目眩、脱毛、急な白髪、トイレが近い、月経不調などの症状があれば、それは多かれ少なかれ中医学の腎に関連しています。
私たちは腎のことを"先天之本"といいます。腎は胎児のころから真っ先に父母からの精を貯蔵し、脾などの消化器官が機能を果たすまで、骨格の発育や、骨、歯など成長に関わる原料を供給します。したがって現代医学で言う遺伝に関する働きは、中医学では腎が司っているとも言われます。《黄帝内経》に"腎者主水、受五臓六腑之腎而蔵之。"とあるように、成長に伴って食物などの栄養から精を吸収できるようになると、腎にはその余分になった精を貯える働きがあります。しかし貯まるばっかりでは腎はパンクしてしまいます。そこで腎の精気が時間の経過とともにある一定の量まで貯えられると、女性は初潮から月経に、男性は夢精をして排泄するようになります。そこからも腎というのが生殖と深く関わっていることが分かります。そのため中医学では腎と人間の生殖行為を密接に結びつけます。中国語では"房事"といいます。"房事過度"つまり精を排泄すぎると体に異常を来す一
方で、適度な排泄が必要だというのはこのことなのです。しかし中年を過ぎるころになると、この腎気も衰えを見せてきます。精神的なプレッシャーや過労などによる精気の過度の労費はその速度を加速させます。骨がもろくなったり、歯が抜けたり、髪の毛が白くなるのはその典型的な表現ですが、それ以外にも更年期などもこの腎の衰えの一つです。しかし《黄帝内経》にもし養生を心得ていれば、衰えること無く100歳でも子供は産まれる。と書かれています。すこし大袈裟にせよ、紀元前1世紀の中国人には現代にも通じる養生訓を持っていたことには驚かされます。
以前、陰陽の項でも書きましたが、人間の体はマクロからミクロにいたるまですべて陰と陽に分けることができるということでした。腎についても同様で、腎を腎陰と腎陽と二つの性質に分類することで腎臓の生理的活動を説明しました。腎はその働きの重要性から、その影響力は体全体に及ぼすものと考えられています。腎の陰陽は五臓の根本であり、そのため古代人は腎の陰陽を"真陰""真陽""命門之陰"命門之陽"と呼びました。もし腎陽が強くなると、発熱や腰痛、耳鳴り、夢精などの症状が現れ、腎陰が強くなると、寒気、水脹、多尿、インポテツ、疲れやすいなどの症状が現れます。これらの症状は中医学ではすべて陰陽のバランスが崩れたためだと考えます。
しかし腎の働きがまったく今の西洋医学と懸け離れているわけでもありません。"腎者、水蔵、主津液"とあるように水の代謝とは深く関わっています。中医学では身体に取り入れられた水分は、消化器官と肺のポンプの働きにより、最終的には腎に運ばれ、腎陽の力によって排泄物は尿となって外に排出されます。腎陽の力が弱まると、水腫などを起こすのはこの排泄の功能に支障をきたすからなのです。その他に腎は肺と協力して、呼吸時の気を身体の深部に送り込むために力を貸しています。典型的なのは慢性気管支炎や喘息の患者を診るとよく分かります。病気が慢性化している患者はよく腰痛や目眩、疲れ、深い呼吸ができないと言うような症状を訴えます。これはまさしく腎の気が消耗されて虚の状態になっていることを示します。有名な生薬"冬虫夏草"が喘息の治療薬として名高いのは、肺の気を補うだけでなく、腎の気も補う働きがあるからなのです。
(山之内 淳)

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