中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

風邪のひき始めの葛根湯(かっこんとう)、その根拠は?
〜葛根湯を探る〜

 日本人なら非常になじみの深い漢方薬、葛根湯。しかしその正体は意外にもあまり知られていないような気がします。今回はこの葛根湯に焦点をあてて、その生薬の中身と、中国の中医学ではどのような意義があるのか、紹介していきたいと思います。

 中薬のさまざまな生薬の配合には決められた配合と組み合わせがあります。これらは古代中国の医学者たちが知恵を搾り出し、臨床経験と照らし合わせながら書物に記載し、現代まで伝承されます。この葛根湯も同様で、出典は西暦200年から205年、東漢末期の張 仲景によって著された《傷寒論》にその源流はあります。ではそこにはどう書かれているのでしょうか?

 ”太陽病、項背強几几、悪汗悪風、葛根湯主之。”
 ”太陽与陽明合病者、必自下利、葛根湯主之。”

   実にシンプルですが、実はこれが葛根湯を応用するための大原則なのです。そして、その次に薬について書かれています。それぞれの薬名の後ろの数字は量を表しています。また文字をクリックしていただくと、薬の写真が出てきます。

葛根 4両  麻黄 3両  桂枝 2両
生姜 3両  甘草 2両  芍薬 2両  大棗12枚

 以上7種類の生薬が含まれています。

 原文にある太陽病、これは抽象的ですが、簡単に言うと、張 仲景は病気の進行を症状別に6つの期間に分け、その中で初期の段階を太陽病としています。症状としては、頭痛、発熱などで、原文ではこれに加えて、汗が出ていなくて、寒気がしたり、風にあたるとブルブルときたり、そして背中から首にかけて凝ったような症状がある時とあります。これは病邪が経絡に入り込み、栄養が潤滑に伝わらないからと説明します。2つめの原文には、以上の症状に加えて、下痢や嘔吐があるときにも使えるとしています。これは体の表面にあった病邪が外へ抜けきれずに、体の内側に入ってしまい、胃腸の働きを阻害しているため、としています。
 この葛根湯は現代でも広く応用され、首や肩が凝ったとき、ある種の慢性鼻炎や慢性腸炎など消化器官の疾患、現代薬理学の研究からアレルギー性皮膚炎や麻疹(はしか)の治療にも使われています。
 この葛根湯の中で重要な位置を占めるのは、なんといっても葛根の作用でしょう。当然、量もいちばん多く含まれています。葛根は比較的性質の穏やかな生薬で、主に下痢の治療に使われますが、それ以外にも熱を冷まし、筋肉を解して、体の津液(液体、水分)を増やし、体を潤す作用があります。桂枝、麻黄は発熱を促進し、体の表面部にある病邪を汗とともに発散させます。と同時に芍薬による水などの陰気をおさえる力でもって発熱しすぎて陰気が傷つけられるのを防ぎ、生姜、大棗、甘草でもって消化器にあたるの働きを高めます。

 傷寒論の作者は、この処方以外にも、薬の服用後の対処法についても言及しています。まず発汗を促進するために、煎じ薬は熱いまま飲み、同時に服用後に熱いお粥を食べる、とあります。また汗をかく力を助けるために、患者が着る衣類を増す、とあります。もし1回の服用で汗が出て、病気が治ったなら、続けて服用しないようにあり、もし効果がないのならしばらくは服用してもかまいません。ただし一般に服用後に汗がでますが、大量に汗をかいてはならないと注意書きがあり、また飲食方面では刺激の強い食べ物、例えばお酒や辛いもの、冷たいもの、生もの、などは食べるな、ともあります。

 このように古書には服用法からその応用、禁忌などが書かれていて、それらを読解していくのが私たち中医を勉強している者の大事な部分なのです。

(山之内 淳)


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