中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

五臓六腑とは? その4〜気を取り込む、肺

 上海でも喘息やアレルギー性鼻炎が増える傾向にあることが衛生局の最近の調査でも明らかになってきています。食物添加物や大気汚染が原因であることは指摘されていました。中医内科の呼吸器科にいると、その患者の数には相変わらず驚かされます。それはなんといっても西洋医学の薬を使わずに中医薬だけでもって発作を抑える治療しているところに理由があります。中医学では発作時よりも、平常時におけるからだの「調理」つまり健康のバランスを保つことを重視します。薬は完全に医師の処方による煎じ薬が中心です。もちろん即効はなかなか期待できませんが、継続して服用することによって、ここ数年発作が起こらないという喘息患者は少なくありません。

 そこで今回は中医学における肺について取り上げます。
 中医学における肺は、五行説では「金」に属し、位置は体の上部にある心臓の近くとありますから、解剖上の肺とほぼ一致します。
 太極拳でも気功でも呼吸法については非常に重視されています。それは肺が気管、口を通して外とつながっているため、飲食と並ぶ非常に大切な「気」の取り入れ口であるからです。それと同時にからだの中で一番高い位置にあるのが肺で、容易に外からの邪気の影響を受けます。またそれでいて肺はとてもデリケートな臓なので、寒邪や熱邪、乾邪、湿邪などの攻撃をまともに受けます。肺は外からの気を取り込むと同時に、衛気という体を防御するために必要な気を作り出し、それを体全体の皮膚に滞りなくめぐりわたします。気功をすると免疫力が高まるという話はよく聞きますが、中医学的には免疫力とこの衛気の働きが関連してきます。体の表面を覆っている衛気が無くなると、体を防衛するものがなくなり、皮膚から汗が出やすくなり邪気の攻撃を受けやすくなります。汗をかいたら汗を拭くようにというのは、開いた毛穴から邪 気が入り込むのを防ぐためなのです。また汗かきは一般に気が不足している状態を示す一つの目安になります。

 呼吸については西洋医学でも中医学でも肺の大切な働きです。古代中国人はCO2のことまでは言わなくても、体内の淀んだ空気と外の空気を交換するということに気がついていました。空気を取り込むことを粛降、空気を発散することを宣発と言います。この働きは非常に大切で、もし体が弱っていたりすると、呼吸だけでなく体全体の水分の流れにも影響をもたらします。この気の上下運動が体の全体の循環に欠かせないからです。例えばここに寒邪が入ってくると気が肺の中で滞り、発散することを妨げます。そうすると咳になるわけです。
 また肺は体全体の水の代謝にも関わっています。つまり汗を排出したり、水を体の下部の腎に運ぶことにより尿をつくります。もしこの働きに問題が生じると、水が滞りなく流れなくなり痰を作ったり、水腫になったりします。そこからわかるように肺というのは腎とも深く関わっています。肺の経絡は大腸とも繋がっています。これは臨床では便秘のときによく考慮します。つまり空気鉄砲の原理で下部が詰まっているときは、経絡で繋がっている肺を補うことによりその作り出された気で下のほうへ押しだし、詰まっているものを取り除こうというわけです。したがって中薬を処方するときは必ず肺に効く薬を考慮します。

 最後に肺に使われる代表的生薬を少しご紹介しましょう。たとえば中華料理でおなじみ杏仁は咳止めだけでなくお通じをよくする働きもあります。ただし毒があるので扱いに注意が必要です。また日本では紫蘇(しそ)として知られていますが、この種も同じような働きがあります。枇杷の葉っぱは咳止めのほかにも嘔吐やしゃっくりを止める働きがあります。おなじみ冬虫夏草は高価な薬ですが、肺や腎の働きを強める代表的な生薬です。

 では次回は視点をすこし変えまして、日本人におなじみの漢方薬、葛根湯(かっこんとう)についてご紹介します。

(山之内 淳)


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