中医沙龍〜中医薬大学の教室より〜

身近な中薬ミニ辞典 〜その1 枸杞(クコ)

 大学の帰り、自転車を走らせ、いつものように近くの小川を渡ったとき、何故かすごく懐かしいニオイがしました。なんてことないいつものドブ川なんですが、気候が暖かくなってくる春先のこのヘドロのニオイは、私が小学生時代、日本で田舎にいたときに全身泥まみれになってやったザリガニ捕りを思い出しました。そう言えば中国の市場に行けば、ザリガニが手に入るな・・・、しかしまてよ、こっちでは飼育用ではなく、食用だったなあ・・・、とか思いながら帰途についたのでした。

 今回は「枸杞(クコ)」についてお話します。
 中国に来て、中華料理を食べたことのある人なら、必ず見たことのある実です。よくスープに混ぜたり、蒸し鳥に彩りを添えたり、中華料理には欠かせない食材で、中国医学でも非常によく使います。また中国の人がよく手に持っているお茶の入った瓶によく赤色の実を覗かせていますが、それがまさにそうです。乾燥した実は干し葡萄のような噛み応えで、味は結構甘いです。



これは枸杞の乾燥した実で、赤色の豆粒ほどの大きさです。→

←これはその植物です。この根っこはまた大事な生薬で”地骨皮”と呼ばれ、ある種の熱冷ましに使われます。日本でも昔は庭によく植えられていたそうですが、私は今はあまり見かけません。ピンク、もしくは薄紫のきれいな花を咲かせます。上海のスーパーに行くと寧夏枸杞子と書かれた袋を見かけますが、寧夏あたりの気候が適しているらしく、そこが主な生産地です。この実自体は毒もほとんどありません。では中医学ではどのように使うのでしょうか?
〔効能〕 養腎補肝明目、潤 肺
〔主治〕 肝腎陰虚、陰血不足、消渇証、陰虚労嗽証

 これだけでは非常に専門過ぎて分かりにくいので、とりあえず見てもらう程度にしていただき、簡単にご説明しましょう。
 体の中でバランスを保っている陰と陽のうち、水、冷たい、などを代表する陰気が不足し、体を温めたり、活発に活動させたりする陽気が性質を露呈させてしまったときに生じるさまざまな症状に使います。その中でも中医学で言う五臓六腑のうち肝、腎、肺とつながる経絡と深く関係があります。 ではどのような症状を指すのでしょうか?
 生殖や体の水の代謝などを司る腎や、血をためたり、気の流れをスムーズにする肝の陰が不足すると、眩暈や目が乾燥したり、皮膚が乾燥したり、腰痛、夢精、男性の不妊がおこり、加えて血も不足すれば、不眠、白髪、顔色が黒味がかった黄色になったりします。消渇証とは、簡単にいえば、西洋医学で言う糖尿病のことですが、中医学ではそのなかでも、陰が不足している”陰虚”の場合に、例えば、やたらと喉が渇いたりする症状に使われます。このとき、中国の民間療法のなかに、毎日20gから30gの枸杞をお茶の代わりに煎じて飲むというやり方が紹介されています。中国の古書《景岳全書・本草正》にはそのほかにも陽を高める作用が紹介されていて、強壮剤としても使うことが出来るようです。また陰の不足したタイプの比較的長期にわたるカラ咳にも使われます。現代ではさまざまな場面で使われています。たとえばコレステロールや血圧、血糖をさげたり、身体の免疫力を高めたり、なんとダイエットにまで使われるという報告があります。。お茶代わりに中国人は、利尿作用のある緑茶、同じく身体を冷まし、血圧をさげる作用のある菊の花、そして枸杞を混ぜて高血圧の予防にお茶代わりに飲んでいます。火傷には大量の枸杞を粉にして油と混ぜて患部に塗ります。そのほか毎日20gを空腹時に食用することにより、胃炎にも使われます。中国の古書《外台秘要・巻十七》に紹介されている枸杞子酒はあまりにも有名で、皮膚や顔色を整えたり、身体の健康維持に使われたりします。
 これらの薬は単独で使われることも有りますが、ほとんどは他の薬と混ぜることにより、その力を発揮させます。”枸菊地黄丸”や”一貫煎”などなど多数です。
 このように一つ一つの薬が中医学的に定義され、系統的に整理されています。その結果、弁証によって解析された患者の症状に合わせて、証が作られ、そこで初めて処方というプロセスを踏むわけです。
 今回の文章でもすこし触れましたが、次回は陰と陽について詳しくご説明します。

■参考図書

  • 中華本草(上海科学技術出版社)
  • 中薬学(上海科学技術出版社)
  • 中薬学(人民衛生出版社)
  • 飲茶養生(華齢出版社)
  • 生薬学概論(南江堂)
  • (山之内 淳)


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